子供の安全に対する意識調査だって? なんだこりゃ?

1割以上が「危険」遭遇 子どもの安全アンケートという記事を見て、「?」が浮かんだ。

 というのも、この部分。


子どもの安全のために求めるものは「地域での取り組み」(64・5%)、「行政での取り組み」(16・6%)、「子どもへの教育」(9・8%)の順だった。

 これを見て、「パーセンテージがなんとなくおかしいな」と思った。

 だって、子供の安全のために地域での取り組みという事に関して、地域での取り組みを期待する人が64.5%もいるのに、なんで行政での取り組みに期待するのが、わずか16.6%なんだと。

「住民の自治はいいけど、行政はできるだけ入り込むな」という住民権利意識の高い人がそんなにいるとは思えないので、なにかアンケート自体におかしなところがあるんだろうなと。思った次第。



 で、ググってみるとありました。

第一回まちcomiリサーチ『子供の安全に関する意識調査』

 PDFでアンケートの詳細も用意してあります。

 ちゃんと全てのデータを公表するあたり、「下流だワッショイ!」と叫ぶくせに、アンケートの一次資料を今後の飯のタネと考えているのか、必死に隠しているどこぞのボンクラとは大違いの誠実さです。



 では、PDFファイルの内容を検証していくことにしましょう。

・表紙



 パッと見、概要と項目だけなので、すぐに次に行きたくなりますが、あっ、ちょっと待ってください!(山本小鉄)

 この「有効回答数 1000」っていうのはなんなのでしょうか?

 有効回答数というのは、全ての回答から未回答を差し引いたものですが、この場合は「アンケートに対する回答全体として有効なもの」という意味でしょう。

 で、それが1000。端数とかないんですか?



 アンケートの配布数は2ページ目にありまして、これが3000ということです。

 有効回答数がきっちり1000だというなら、そもそも「まちcomi」に登録するような防犯意識の高いはずの人たちのうち、3分の1しかアンケートにまともに答えなかったということになります。

 もちろん、携帯メールでアンケートをお願いしたのですから、spamなどと間違われて捨てられることもあるでしょうし、わずか3日という調査期間の問題もありますが、それにしても1000というのは、少ない気がします。

 まぁ、実際は全有効回答数から、1000を抽出したってのが正しい解釈なのでしょう。しかし、このアンケートの回答をみると、すべてが%表示なのだから、わざわざ抽出をする意味はないんですけどねぇ。

・回答率上位は北陸、東海、九州・沖縄



 えーと、パーセンテージで示されると、母数が分からないので困ります。

 地域別に出すなら、全ての地域別の母数とパーセンテージを一緒に表示するべきです。

 北陸が100人ぐらいで、関東が2000人ぐらいなんていうんじゃ、それを並列に並べる意味はありません。

・低学年の子供をもつ保護者が7割以上



 ……この円グラフの意味、分かります? 私には分かりません。

 いえね、円グラフというのは「足して100%」になるものに対してのみ使えるんですよ。

 アンケートの母数が1000。ということは、たとえば「小学校1年生」の20.6%というのは、小学1年生が206人いるということです。母数が抽出した1000であるという以外のデータが無いのですから、そう考えるしかありません。

 ……けれども、アンケートの対象は「親」なのです。

 いいですよ。アンケートを送付した親は「すべてひとりっこの親である」と分かっていて、こういう結果を出しているのなら。

 でも、本当に二人以上の子供をもつ親はいないのでしょうか? いないと考えないとこの円グラフが成り立たないのですよ。



 この項目はどう考えても複数回答を前提にするものですから、当然棒グラフなどを用いるべきなのです。円グラフは単独回答のものにしか使えないというのは、義務教育でならったお約束のハズなのですが……

・解答者の性別はほぼ同数



 これも上と同じです。子供が2人以上いる親は、どのように回答したのでしょうか?

・約9割の保護者が、住んでる街に対して不安を感じている



 さて、この項目の文章と、グラフを見比べてどう思いますか?

 一体どこに「9割」があるのでしょうか。

 不思議に思いながら、文章をよく見ると、ありました。


また「わからない」と答えた39.2%を加えると、安全だと思っていない人の割合が89.7%と全体の約9割に上り、自分達の住んでいる街に対して安心だと言い切れないなんらかの不安感を感じていることが伺える。

 なるほど「思う」以外が9割ってことですね。

 けれどもそれは「なんらかの不安感を感じている」ということなのでしょうか?

 そもそも、安全の反対語は「不安」ではなく「危険」です。

 「9割が不安を感じている」という言葉は自然に聞こえても、「9割が危険を感じている」となれば、どれだけ恐ろしい街なんだ? という事になり、この「9割」という数字がおかしなものであることに気がつくでしょう。



 そういう意味で、この場合「思わない」の選択肢が「危険だと思う」ではないことに注意が必要です。つまり、安全だと言い切れないけれども、それほど危険だとも思っていないうちの大多数が「思わない」の選択肢を選択するために、実際に危険を感じている人たちよりも「思わない」の比率がかなり大きくなっていると考えられます。

 で、報道では50.5%の思わないの部分だけを報じていますが、この回答のキモは、「分からない」の39.2%をどう考えるかということです。

 解説文では


また「わからない」と答えた39.2%を加えると、安全だと思っていない人の割合が89.7%と全体の約9割に上り、自分達の住んでいる街に対して安心だと言い切れないなんらかの不安感を感じていることが伺える。

 と、記していますが、「思わない」の選択肢が上記のとおり、曖昧な立場の人たちを多く取り込んでおり、実質的に中間の立場にあります。よって、この選択肢は「安全だと思う」側に編入するのが妥当であると、私は考えます。



 本当ならこのアンケートは「(危険)1-2-3-4-5(安全)」として、妥当だと思うあたりに○を付けてもらうような、両極を明確にした形式で聞く必要のあるものでしょうね。

・約1割超の子供が実際に危険な目にあったことがある



 この「実際に危険」という言葉の意味が明確ではありません。

 不審者情報を登録するツールを提供する会社でのアンケートなのですから、それは「不審者に危険な目にあわされた」と考えてしまいがちですが、ここには「実際に危険」としか書いておらず、それがどの類の危険であるのかは明示されていません。

 ひょっとしたら、「車に轢かれそうになった」「転んだ」「家で天ぷらを揚げていたら、子供の顔にハネた」などが「危険」として挙げられているかも知れません。

 このような意味不明なアンケート結果であっても、こうしてまとめられて新聞に掲載されてしまえば、それが公然の事実として独り歩きしてしまうのは、大変恐ろしいことです。



 ちなみに、解説文の後半部分。「1000人の保護者が持つ子供のうち、127人の子供がなんらかの危険な目にあったことがあるという結果」という文章から、最初の「低学年の子供をもつ保護者が7割以上」の項目で指摘したように、このアンケートを分析している人間が、アンケートの回答数と、子供の数を混同して考えていることが分かります。それとも本当に一人っ子の親限定アンケートなのでしょうか?

・子供にとって危険だと思う場所は「下校時の通学路」がトップ



 場所を聞くのに、選択肢がたった5つ……

 うち、通学路が2つで、ほかは通学路以外と公園とその他(公園とその他は「通学路以外」と何が違うんだ?)なのですから、選択肢はないに等しいです。

 なんかいまにも、近くで大勢のバイキングが「通学路通学路通学路通学路!」と大声で歌い出しそうです。

 そうか、最近の子供は通学路と公園にしか生息していないのか……

・防犯グッズを持たせていても有効性には疑問を感じている



 だから〜、防犯ブザーとGPS携帯を両方持たせている親は、どう回答すればいいんですか〜?

 あと、さっきっから何度も言ってるけど、単語は明確に定義してくれ。「有効」じゃ何に対する有効性か分かんないのよ。

 防犯ブザーは、犯行が実行された直後に、犯人を逃走させるという有効性ですし、GPS携帯は連れ去られた後に場所を把握するための有効性です。

 で、親が求めているであろう有効性は、そもそも子供が犯罪のはの字にも触れないで済むという有効性でしょう。



 というか、これって完全に「まちcomi」の宣伝に使うためのアンケートだよね。

 防犯ブザーだけでもGPS携帯だけでも不安だから、まちcomiを使おうってことでしょ。

・子供達の安全の為に必要なのは地域の取り組み



 まずは左のグラフから。

 はい、選択肢を見ただけで、典型的なクズアンケートです。

 この手のアンケートは、中央の山が大きくなって、両端が少ないのが当たり前です。

 そのもっとも大きな山の部分に「少し不安」という項目をおいて「全体の8割以上の保護者が地域の防犯対策に不安」などというのは、完全に偽装です。

 もし、この「少し不安」の項目を「少し安心」に置き換えても、53.7%の数値はほとんど変わることがないハズです。そうなれば「全体の7割近くの保護者が地域の防犯対策に安心」という数値を偽装することもできます。



 当然、この選択肢は「少し不安」のところを「どちらともいえない」にするべきなのです。

 どうしても安心か不安かという事にしたければ、「少し安全」を加えて6項目にするべきです。



 右のグラフですが、これが最初に報道で触れたグラフですね。

 円グラフで示してあるということは、やはりこれが複数回答可では無いということです。

 まさか地域での取り組みが必要だと思っている人が、家族や学校、行政の取り組みが不要だと思っているわけではありません。

 また、選択肢に具体性がないために、地域の取り組みの項目が、他のすべてを取り込んだ、最大公的選択肢として見られている可能性が高いと考えられます。



 えーと、最後のほう、なんか失速してしまいましたが。くだらないアンケートというのは、見るだけで疲れるものです。