『搾取される若者たち』阿部真大

搾取される若者たち ―バイク便ライダーは見た! (集英社新書)

「労働問題は学者のメシの種じゃない」


 現実に搾取される側の人間としてこの本を読んで感じたのは、怒り半分、呆れ半分。
 だが、それは決して、著者の示すような、仕事への執着こそが搾取構造を生み出す不平等なシステムに対してではなく、著者に対してだ。

 この本に示されているのは、それこそ昔からよくある、自由裁量労働だ。そして、その問題点を見事に突いている。
 だが、所詮はそれだけのこと。「ミリオンライダー」という言葉があるように、彼らは働けば働くほど給料が得られる。その代わり、健康や事故のリスクが大きい。「働き過ぎ」や「過労死」が話題になった頃の古い労働問題である。

 しかし、現在問題にされている新しい搾取構造は、これとは異なる。
 いくら頑張って働こうとも給料は上がらず、手取りでせいぜい十数万。コンビニやガソリンスタンド、本屋などでのバイトなら給料が安くとも安定性はなんとかあるが、派遣の工場労働に至っては、労働契約が毎日更新の例もあり、給料も安定性も劣悪だ。安全性など、使い捨て労働者には贅沢だと言わんばかり。
 こうした、現代版「あゝ野麦峠」ともいえる構造こそが現代の搾取問題なのだ。

 著者は「「やりたいこと」を仕事にできないニート、「やりたいこと」を仕事にできたワーカーホリック」という二極化が進行しているというが、この認識からは、やりたくないことをせざるを得ないフリーター達の存在が完全に消えてしまっている。つまり、そもそも問題自体を認識できていないのだ。

 結局この本は、たまたま著者がバイクに興味があって、バイク便の仕事を選んで働いた経験を書いただけのものだ。それが著者が東大の大学院生であったというだけで本になったのだろう。

 我々が搾取されているのは、決して経済界からだけではない。正社員の労働者たちは我々を自己責任論で見下し、親たちは我々を無能者呼ばわりして自尊心を得る。
 そして、それは労働問題を自分たちのメシの種ぐらいにしか思っていない学者連中も同様だ。